「人はね、どんな悲しいことがあっても、どれほど絶望しても、
ひとつの感動や、ひとつの喜びや、ひとつの恋で生きられるの」
生きるためのひとつの答えがわかるかもしれない恋愛小説です。
今回は小坂流加さんの
「生きてさえいれば」
について紹介をしていきます。
気になったらぜひ読んでみてください。
それではさっそく紹介をしていきますね。
「生きてさえいれば」について解説
「生きてさえいれば」は「余命10年」よりも前に書かれた小説だそうです。
小坂流加が亡くなった後に発見された小説を、ご家族のご協力を得て出版されました。
「余命10年」とは違った世界観の小説、奇跡のラブストーリーです。
作者
小坂流加(こさか・るか)
7月4日生まれ。静岡県三島市出身。第3回講談社ティーンズハート大賞で期待賞を受賞。本作の編集が終わった直後、病状が悪化。刊行を待つことなく、2017年2月逝去。
あらすじ
生きていれば。恋だって始められる。生きてさえいれば…。
大好きな叔母・春桜(はるか)が宛名も書かず大切に手元に置いている手紙を見つけた甥の千景(ちかげ)。病室を出られない春桜に代わり、千景がひとり届けることで春桜の青春の日々を知る。学内のアイドル的存在だった読者モデルの春桜。父の形見を持ち続ける秋葉。ふたりを襲う過酷な運命とは――。?魅力的なキャラクター、息もつかせぬ展開。純粋な思いを貫こうとするふたりを描いた奇跡のラブストーリー。
「生きてさえいれば」の見どころを紹介
・四季の名前
この物語には春夏秋冬の文字が入った人物が登場します。
心臓疾患で入院している「春桜」
その姉の「冬月」
春桜のかつての恋人「秋葉」
秋葉の妹の「夏芽」
この名前が物語の鍵を握ることになります。
・口にしないとわからない
読者モデルをしている春桜は、周囲が羨むほど輝いている一方、姉の冬月には嫌われていました。
父が妹を可愛がっていて、好きになる人もみんな春桜に目がいく。それが嫌だったからです。
そして、名前にこだわる。だから、秋葉にもこだわっていると…。
でも、それは違っていた。
初めて春桜が自分の想いを口にしたことで、真相を知った秋葉と打ち解けあっていきます。
・それぞれの苦悩
この物語では多くの人が苦悩して生きています。
春桜に起こったこと。秋葉に起こったこと。
それが悩みとなって2人の心に深く残ることになります。
その悩みや苦悩は、2人の周りにいる多くの人物が抱える悩みと合わさって複雑に絡み合っていきます。
運命か偶然か、絡まった糸が解けていく先にある結末とは・・・。
「生きてさえいれば」のネタバレありの感想
ここからはネタバレありの感想を書いています。
この物語は恋愛小説ですが、人生について何かの糧になるような小説だと思いました。
「生きていなくちゃ、悲しみや絶望は克服できないのよ。生きて時間を前に進めないことには、感動や喜びや恋に出会えないからね」
小説の一説です。
人生には辛いことや悲しいことがたくさんあります。
でも、それと同じくらい楽しいことや嬉しいことがたくさんあります。
それを感じることができるのは生きていなければなりません。
まさに、この小説の題名「生きてさえいれば」のようにです。
作者の小坂流加さんは病気によって亡くなりました。
なので、この題名や物語に自分の想いを込めていたのかもしれません。
物語は千景(ちかげ)という少年の視点から始まります。
叔母(春桜・はるか)に憧れる千景は、ある日封筒を見つけます。
それは「羽田秋葉さま」と書かれた手紙でした。
千景は春桜の代わりに大阪まで手紙を届けに行くことを決めます。
そこで叔母の青春の日々を知ることになります。
7年前、春桜は人気の読者モデルでした。サークルでも特別扱いをされるほど。
そんな、サークルの飲み会で秋葉と知り合います。
最初の一言が、「結婚しよう」。
その理由は、秋葉の名前に「秋」が入っており、また妹の名前に「夏」が入っているというもの。
この訳もわからない理由が、物語の鍵となっていきます。
そこから春桜は事あるごとに秋葉の前に現れます。
最初は鬱陶しく思っていた秋葉でしたが、人から言われる春桜のイメージと
春桜の想いが違うことを知り、それがきっかけで惹かれるようになっていきます。
春桜は誰もが羨むモデルで、愛想の良い、出来た人というイメージでした。
しかし、その春桜は人々が作り上げた春桜で、春桜自身もそれを受け入れていたのです。
春桜は、よれたTシャツにスウェットを着るような普通の人でした。
そんな春桜に秋葉はどんどん惹かれていきます。
しかし、幸せの日々はあることがきっかけで崩れ去っていきました・・・。
この物語は恋愛小説でありながら、家族がテーマな気がします。
春桜は両親が亡くなっており、姉との関係が悪かった。原因は父親が春桜ばかりを可愛がっていたからです。
秋葉は父親が蒸発し、再婚した母と新しい父の間に生まれた夏芽がいました。
しかし、半分しか血がつながっていないことから、夏芽に嫌悪感を抱いていきます。
そんな複雑な家族だったからこそ、物語は複雑になっていきます。
過去編の話のラストは、この複雑な家庭事情と心情、偶然が重なっておきた悲劇でした。
そして、お互いがどうすることも出来ない状況に追い込まれます。
そのことからお互い干渉しないようにしてきた春桜と秋葉でしたが、
千景が秋葉のところに現れたことで、少しずつ抱えていたものが溶け始めます。
もう二度と動かないと思っていた時が動き始めます。
悲劇の原因は誰が悪い訳でもありません。
でも、みんなが心の中で自分が悪いと思っていた。
その心の悩みがスッと消えていく瞬間は心の奥から何かが締め付けるような感覚でした。
心の奥に抱えているものって、中々外には出せないものです。
だから苦しくて、辛い。
それがわかるからこそ締め付けられる感覚になったんだと思います。
そして秋葉は春桜に会いにいくことを決意して、東京に向かいます。
病室であった2人のその先の未来はわかりません。
物語はここで終わっているからです。
でも、幸せな時間になると思います。
生きてさえいれば、良いことも起こる。
生きてさえいれば、恋だって始められる。
生きてさえいれば、ほんとうの幸を見つける旅が続けられる。
タイトルの通り、「生きてさえいれば」なんだって起こりえる。
春桜が生きていたことで、秋葉にまた出会えた。
生きている時に秋葉が会いに行ったことで、春桜の止まった時間は動き始めた。
この小説を読んで、生きていることが幸せなのだと強く思いました。
ただの恋愛小説ではなく、感動も味わいたい人にオススメです。
もし、気になったら読んでみて下さい。
同じ作者の「余命10年」も違った魅力があるのでオススメです。
小坂流加さんの「余命10年」を読んで。あらすじと感想。
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